Retrofoucus(レトロフォーカス)型とは アンジェニューが発明した世界初の広角レンズ構成
Retrofoucus(レトロフォーカス)型とは アンジェニューが発明した世界初の広角レンズ構成
35mm用一眼レフカメラのレトロフォーカス型初期レンズ一覧早見年表
- 1950年 仏 Angeniux Paris Retrofoucus Type R1 35mm F2.5
- 1951年 東 Carl Zeiss Jena Flektogon 35mm f2.8
- 1953年 仏 Angeniux Paris Retrofoucus Type R11 28mm F3.5
- 1957年 仏 Angeniux Paris Retrofoucus Type R61 24mm F3.5
- 1958年 西 Carl Zeiss Contarex Distagon 35mm f4
- 1961年 東 Carl Zeiss Jena Flektogon 25mm f4
- 1963年 東 Carl Zeiss Jena Flektogon 20mm f4
- 1967年 西 Carl Zeiss Yashica Contax Distagon 18mm f4
- 1976年 東 Carl Zeiss Jena Flektogon 20mm f2.8 MC
Retrofoucusレトロフォーカス型とは
Retrofoucusレトロフォーカス型とはレンズ構成の一種で、世界初のスチル(写真)用レトロフォーカス型レンズはフランスの光学メーカー、P.Angenieuxが1950年に世に送り出した「Angeniux Paris Retrofoucus Type R1 35mm F2.5」。
そして、アンジェニューから送れること3年、1953年(1951年でほぼ同時期という話もある)に旧東ドイツのCarl Zeiss Jenaがレトロフォーカス型のFlektogon 35mm f2.8をリリースした。ちなみに、本ブログ、本記事のアイキャッチ画像で撮影したオールドレンズ4本は全てレトロフォーカス型で、レンズは「Carl Zeiss Flektogon 20mm f4、Pentacon 29mm f2.8 MC、Konica Hexanon AR 35mm f2.8、Konica Hexanon AR 28mm f3.5」である。後からLeitz Elmarit M 28mm f2.8 2ndも入手した。
コニカのヘキサノン35/2.8はアンジェニュー35/2.5のレンズ構成を真似して設計された。コニカに限らずドイツや日本のカメラレンズメーカーはこぞってアンジェニューが生み出したレトロフォーカス型というレンズ構成を真似したレンズをリリースしていた。
国産初のレトロフォーカス型レンズは1958年に発売されたPentaxのAuto-Takumar 35mm f2.3である。1962年にはAuto Takumar 35mm f3.5が登場、他にもMiranda Soligor 35mm f2.8、PETRI C.C. 35mm f2.8なども同じくアンジェニューのレトロフォーカス35/2.5R1の光学レンズ構成を模写している。
これら国産のレトロフォーカス型のコピーレンズの多くはコーテイング技術が発達してきた1960年代頃なので発色は改善されているが、よりオールドレンズ風でシネマ的な写りを堪能するならやはりノンコートや単層コーティングのオールドレンズだろう。
画像転用元:mik.hamaのいい加減にします
アンジェニューが発表する18年前にレトロフォーカス型の特許が存在
しかし、実はアンジェニューが1950年に広角レンズを発売するより18年も前にレトロフォーカス型の特許は存在する。レトロフォーカス型は一言で表現すると「逆望遠」だが、この逆望遠の原理は、ハリウッドの映画カメラマン、ジョーゼフ・ベイリー・ウォーカーが1932年に特許を取得している。
そして、逆望遠の原理と同時に前群の凹レンズと後群の主光学系の間隔を変化させることでズームレンズになることも示している。では「1950年アンジェニューが世界初のレトロフォーカス型を開発し、その広角レンズを発売した」という話は何なのか?その答えは「市販された写真用レンズとしては世界初」なのである。
レトロフォーカス型の名前の由来
「レトロフォーカス」の名前由来は、アンジェニューのレンズ名レトロフォキュ(Retrofocus)だ。つまり「レトロフォーカス」とはアンジェニューが生産したレンズの名称だった。後年、アンジェニューのレトロフォーカスのレンズ構成を英語読みの「レトロフォーカス」という呼称で一般名詞として定着した。
レトロフォーカス型の仕組み
レトロフォーカス型の仕組みは、先頭のレンズに被写体側に張り出した大きな凹メニスカスレンズを配置し、各方向から入射する主光線の角度を平行に近付け、その画角に相当する焦点よりも実際の焦点の位置を後ろに持っていく。これにより、長いバックフォーカスを取ることを可能にした。
レトロフォーカス型は逆望遠
レトロフォーカスとは「逆望遠」を意味する。逆望遠は写真レンズにおいて複数枚の要素から成るレンズの構成様式の1つ。ガリレオ式(型)望遠鏡に代表される通常の望遠レンズ(テレフォト型)は前群が凸で後群が凹だが、レトロフォーカス型逆望遠はこれとは逆で、前群が凹で、後群に強い凸を配置する非対称型の構成様式だ。
レトロフォーカス型の発明で一眼レフが普及した
時代はレンジファインダーカメラが主流で一眼レフカメラの普及は遠く及ばなかった。その理由の一つに一眼レフカメラは広角側が苦手という事実があった。この問題を解決して優秀な一眼レフ用の広角レンズを世に送り出し一眼レフカメラの普及に大きな功績を残したのがレトロフォーカス型の発明である。
一眼レフカメラはボディ内にミラーを搭載している為、広角が苦手だった。その弱点を克服して広角側の銘玉を生み出すきっかけになったのが1950年に世界初のレトロフォーカス型を採用したフランスのP.Angenieux 35mm F2.5 R1である。
バックフォーカスを伸ばして広角レンズを作った
レトロフォーカス型の仕組みは、焦点距離はそのままにバックフォーカスを伸ばす方法を取ったことである。最初期のレトロフォーカスは、テクニカラー用に設計されたと言われている。テクニカラーはレンズとフィルムの間に分光用のプリズムが入るが、このプリズムの為にバックフォーカスを伸ばす必要があった。特に広角レンズはバックフォーカス短い為、バックフォーカスを伸ばす技術が必要だった。
レンジファインダー機はバックフォーカスが短い設計の広角レンズも使用可能
当時のスチル(写真,静止画)カメラはレンジファインダー機が全盛だった。レンジファインダー機はレンズとフィルムの間に存在するのはシャッターのみである。ビオゴン(Biogon)のようにフィルム側に後玉が飛び出していても問題がなく、バックフォーカスの短いレンズにも対応できた。これによりレンジファインダーカメラは一眼レフカメラが苦手とする広角側を全く問題としなかった。例えば、ContaxGのHologonT*16mmF8はバックフォーカスが6.8mmだが、レンジファインダー機は全く問題なく使用できる。
ムービー用のアリフレックスでも活躍
レトロフォーカス型のレンズは、アリフレックスなどの一眼レフムービー(動画,映画)カメラでも活躍した。その理由は、レトロフォーカス型レンズの発明により、アリフレックスはファインダーを覗き実像を見ながら撮影することができるようになったからだ。その仕組みは、アリフレックスはレンズから入る光を高速回転するミラーでフィルムとファインダーに交互に分岐させる事によりファインダーで実像を覗きながら撮影が可能になった。
50mmではなく52mm、55mm、57mmという標準焦点距離の謎もバックフォーカスが原因
1950年代、スチル界でも一眼レフ化が進んだ。一眼レフはレンズとフィルムの間にミラー機構が必要で、バックフォーカスは4cmまで伸びた。一眼レフの標準レンズで52mm、55mm、57mmなど焦点距離を伸ばしたモデルが存在するのも、このバックフォーカスの問題が原因なのだ。
日本の各社レンズメーカーもアンジェニューのレトロフォーカス型レンズ設計を模倣(コピー)した
バックフォーカスが長いレトロフォーカスは当時の一眼レフにおいてまさに最適な設計だった。アンジェニューは世界初のレトロフォーカス型広角レンズ35mmF2.5R1に続き、1953年に28mmF3.5R11を発売し、1957年には24mmF3.5R61を発売した。
当時、日本でも一眼レフカメラの製造に活路を見出し始めていた。アンジェニューが発明したレトロフォーカス型広角レンズが日本にも知れ渡り、日本の各社は一斉にレトロフォーカス型レンズを真似て開発に乗り出した。
この為、日本で発売された初期のレトロフォーカス型レンズはアンジェニューR1のレンズ構成を真似したものが多かったが、50年代中盤以降はコンピューター設計となり、様々なタイプのレンズが開発された。
参考文献:Wikipedia逆望遠、オールドレンズ解体新書-レンズ構成で個性を知る(澤村徹著) , Dr.マスダの写真レンズ教室
レトロフォーカス型のレンズ構成は複数種類ある
第二次世界大戦後、初期の35mm一眼レフカメラのメーカーは、標準の50mmレンズよりも広角のレンズを開発しようと試みた。1950年、とある2人のレンズ設計者がそれぞれ独自のレトロフォーカス型35mmレンズを発表した。
フランスのAngeniuex 35mm f/2.5と東ドイツのCarl Zeiss Jena Flektogon 35mm f/2.8だ。これら2つのレンズのデザインは大きな湾曲した前玉と小さな後玉で構成されていて、全体的な特徴は酷似していた。
Angenieuxのレンズ構成は後群にTessar型グループを採用し、CZJの光学設計は後群にBiometar/Xenotar型を採用した。だから同じレトロフォーカス型でスペックもほぼ同じレンズだが、写りが違うのだ。
間違いなくこれらの2つのレンズの設計は少なくとも第1世代の35mm焦点距離一眼レフレンズの光学設計のテンプレートを全世界に提供したと言える。また、当時のレトロフォーカス型レンズは後群の設計がTripret構成のMeyer Optik GorlitzのPrimagon35mm/f4.5プリマゴンなども存在する。
レトロフォーカス型の発明は一眼レフの普及に貢献した
このように、アンジェニューが開発したレトロフォーカス型広角レンズは、一眼レフカメラ界において革命的な発明だった。オールドレンズが好きな読者の皆さんも興味があればレトロフォーカス型オールドレンズの写りを堪能してみてほしい。