Kern ALPA Macro Switar 50mm F1.8 AR レビュー作例 美ボケ滲む銘玉マクロオールドレンズ
Kern ALPA Macro Switar 50mm F1.8ARのReview作例 美ボケ滲む銘玉マクロオールドレンズ。スイスのケルン社がALPA用に製造したマクロスイターは史上最高の標準レンズと呼び声高いオールドレンズでまさに生きる伝説。当時では考えられないクオリティでコスト度外視して設計され、当時のスチル用レンズとしては異例のアポクロマート加工やレンズ硝材に蛍石を使用するなど通常の10倍以上もコストをかけて手作り生産された。まさに芸術品のようなレンズだ。
Kern ALPA Macro Switarの魅力
グルグルボケもない、派手なゴーストもない、ボケモンスター的に崩壊するボケもない、おまけにピントリングが回しにくく最短撮影距離まで3回転近く回す必要がある。
しかし、美しいフレアーと美しい滲みと美しいボケと美しい空気感があり、ヘリコイドの繰り出し量の多さは1枚の写真をじっくり大切に撮らせてくれる。
決定的瞬間を狙うのではなく、ゆったりと構えてじっくりと被写体と向き合うことの大切さを教えてくれる。
Macro Switar 50mm f1.8は、とにかく描き方が丁寧でまろやかで美しい。
レンズは手作り高級時計のように精工で工芸品のように美しく、マクロスイターで撮影した写真は白いキャンパスに描かれた水彩画のように繊細で優しく美しく、そして柔らかい。
Kern ALPA Macro Switar 50mm F1.8 ARとは
35mm判1眼レフカメラALPAは世界中から集められた銘玉が使える夢のようなカメラだったが、カメラの価格はLeica(Leitz,ライカ)よりも遥かに高価で大衆がALPAのカメラを所有することは困難だった。そのALPAで最高峰の標準域レンズがMacro Switar。マクロスイターはシネマ用レンズで有名なスイスのKern Aaraw(ケルンアーラウ)社がALPAの為だけに設計し生産していた。
Kern ALPA Macro Switar 50mm f1.8の中古価格
マイナーなALPAマウントの影響で史上最高の神オールドレンズと言われている本レンズは今まで中古価格が安過ぎた。2022年の中古相場は18~25万円前後だったが、2024年4月現在は25~40万円前後と価格が高騰している。というより、ようやく適正価格に近付いてきたと言える。製造本数が1万本と数が少ない為、今後も価格の高騰は避けられないだろう。
Switarの語源と読み方はスイター
Switarの語源は「Switzeland Aarau」。「Swit」zeland、A「ar」auでSwitar。よって日本語発音は「マクロスイター」が正しい。「スウィーター」だと「甘い」の「Sweet」に「er」で「sweeter」かい、みたいな。違う。Switz + AarauでSwitar(スイター)。
Switarはシネレンズ専門のKern唯一のスチル用レンズ
当時Kern社はムービーカメラPaillard Bolex社のほぼ専業でレンズを製造していた。AlpaのSwitarシリーズ以外は全てシネレンズ。Kern最初で最後のスチル用レンズのシリーズがSwitar。Switarの開発は極秘で遂行されていた。実はボレックスの設計者ボルスキーがALPAを開発しているので、KernはALPA用のレンズを製造したのではないかと考えられている。
Switarの製造本数
マクロスイター50mmF1.8は製造は1958年~1969年にかけて約1万本製造され、Switarシリーズ全体では約17000本生産された。
Kern ALPA Macro Switar 50mm f1.8の写りの特徴
Macro Switarの写りの特徴は、前ボケはやや硬く後ボケは非常に柔らかい。背景はとろけるように柔らかく言葉にするのは難しいがボケが本当に美しい。マクロ域で最高の性能を発揮するが中間距離も非常に美しく、現在でもポートレートやムービーでSwitarを使用しているカメラマンもいる。ちなみにレンズ名に「マクロ」銘が入っているが撮影倍率は1/3。
Kern ALPA Macro Switar 50mm f1.8は通常の10倍コストをかけたアポクロマート仕様
マクロスイターは非常にコストがかかるアポクロマート補正が施されている。現在ほとんどのレンズが単色光か2色光の光路計算で設計されていて各メーカー共に上位モデルがアポクロマートであることが多いが、当時のスチル用レンズとしては異例だった。アポクロマートは光の3原色(赤、青、黄)を光路計算して設計されている。アポクロマート設計をすると必然的にコストがかかり販売価格も高騰する。Kern社はシネマ仕様で史上最高のスチル用レンズとして、通常の10倍ものコストをかけてSwitarを開発した。
Kern ALPA Macro Switar 50mm F1.8のレンズ構成
Macro Switarのレンズ構成は第3群が凹レンズの貼り合わせのダブルガウス型。だが、筆者の見解は反転ダゴールの要素が強く、貼り合わせを剥がしたダゴールから派生した変形ガウスのように見える。同じくガウス型のウルトロンの変形と言う方もいるが、いずれにしてもマクロスイターと同じレンズ構成を採用しているレンズは他にない独自のものだ。
画像転用元:無一居
もはやSwitar型と言ってもいいくらいだ。それぞれのレンズの形や構成は非常に古臭く古典的だが、全体で見ると過去から現在まで見ても唯一無二のレンズ構成でゾクゾクする。また、通常ソフトフォーカスレンズに採用される光学のバランスだが、スイターのピント部はくっきりシャープで背景の独特な柔らかさはソフトフォーカスレンズの後ボケと共通する。
Kern ALPA Switar 50mmのバージョン
名称 | レンズ構成 | 特徴 | 製造本数 | |
初代 | Switar 50mm f1.8 | 5郡7枚 | 絞り羽根15枚 普通絞り | 1,526本 |
2代目 | Auto Switar 50mm f1.8 | 5郡7枚 | 絞り羽根9枚 自動絞り機構 | 5,785本 |
3代目 | Macro Switar 50mm f1.8 | 5郡7枚 | 最短撮影距離28cmで1/3マクロ | 10,329本 |
4代目 | Macro Switar 50mm f1.9 | 5郡8枚 | 光学を変更 | 6,303本 |
※自分用メモとして第二世代アルネア用のSwitar 50mm f1.8 ARのスペックを記載しておく。
- 製造:1951年~1955年
- レンズ構成:5群7枚ガウス型
- 最小絞り値:F22
- 絞り羽根枚数:15枚 普通絞り
- 最短撮影距離:53.5cm
- フィルター径:Aサイズ
- 全長:45mm
- 重量140g
- 製造本数:1526本
- 一次収差補正型アポクロマート設計
- ヘリコイド1回転弱で無限大から最短撮影距離までピント調節可能
Kern ALPA Macro Switar 50mm f1.8の最大欠点はヘリコイドの繰り出し量が多い
Macro Switar 50mm f1.8を初めて店頭で試写した時に驚いた。スナップできないと思った。ヘリコイドの繰り出し量が多く、3回転近く回してようやく最短撮影距離に到達。しかもピントリングが掴みにくく回しづらい。これは実際に操作して試写してみないとわからないことだ。
実際に筆者も購入候補から一旦保留にした。人によると思うし、普段の撮影スタイルにもよるし、何の為にどんなレンズを探しているかにもよる。しかし時を経て今の価値観ではドンピシャ。
ピント面をじっくりシビアに合わせにいけるのでじっくり撮影する時の作品作りに適しているし、スナップするなら35mmの方が適している。小ぶりのスナップシューターオールドレンズは28mmと35mmで何本か所有しているので大きなボケを狙う50mmとはそもそも用途が違う。
そのような経緯で購入に至った。本気の50mmと本気の35mmが欲しいと思った。マクロスイターは操作にクセがあるオールドレンズなので、実際に試写してみてから購入を検討した方がいい。
Kern ALPA Macro Switar 50mm f1.8 ARのレンズ外観Review
KIPONのマウントアダプターを装着したまま撮影している。
ずっと根気強く探し続けてきて状態のいい個体に巡り合えてよかった。レンズは清掃済みでとても美しい。こうして入手できてよかった。
作りも非常に精工でさすがスイスKern。
何度も言うが、操作性は悪い。そういうレンズ。だからこそ、1枚1枚を大切にできる。
Kern ALPA Macro Switar 50mm F1.8の作例Review
撮影機材カメラはSonyのフルサイズミラーレスカメラα7Ⅳ、レンズの素性を探る為、クリエイティブルックはNTでjpeg撮って出し。
ALPA純正レンズキャップの白色の滲みを肴に酒が呑める。至高の滲み。マクロスイターの替えレンズはこの世に存在しない。
とりあえず試写したいと自宅の観葉植物を撮影。なんだこの優しい描写は。ピント面のとろみとツヤがエグすぎる。柔らかくて優しくてマジで恋した5秒前。
こういうことか、マクロスイターが史上最高の標準レンズと言われる所以は。他の銘玉と呼ばれるレンズとはさらに一線を画す。
もうたまらず隙間時間で公園で15分位試写。何?このモフモフ。ピント面の切れ味と美ボケの乖離が激しい。こういうことか。
いつも公園で思うけどこの被写体好き。玉ボケも発生しやすい。発色がニュートラルで現行レンズのように誇張し過ぎないので見やすい。
この木の幹も好き。かっこいい。拡大しても全然余裕で解像するのよこのレンズ。ケルン社は元々シネマレンズが得意なので大型スクリーンで見てもしっかり解像するレンズの製造はお手のものか。フォーマットはフルサイズを余裕で超えていそうだ、調べるか。
どの作例見てもそうだが解像力が高くて自然な色の再現性が高い。また、先程の作例もそうだが、中間距離の後ボケはやや硬い。描き方が水彩画と写真の中間のようでなるほどシネレンズメーカーKern初のスチル用レンズかと感心。
地べたでマクロの試写。優しくてクセが少ない。本来精密時計メーカーであるKern社の美学を感じる。
夏に赤い葉を見つけると飛びつく筆者。心の声は「夏の紅葉だwワーイ!」でも見た目スカしてる。
ピント面激薄なんですこのレンズ。等倍ではなく1/3倍で50mmだが手持ちマクロ撮影は結構シビア。環境によってはこのように激しいボケが表現できる。
時が止まったような表現力と美しさ。女神のようなオールドレンズだ。
筆者はクセ玉オールドレンズが大好きだが、マクロスイターは別腹だと思った。クセは少ないがその中にケルンこだわりの描き方があり美学を感じる。
不思議なレンズだ。他にはない写り。
公園の人々が歩いて自然にできた道。が、クッソエモい。
切り株から生えた草とか大好き。休日に用事を済ませながらの隙間時間の15分で素敵な時間をありがとう。
翌日の早朝。湿度が高く前日の深夜に少し雨が降ったような様子。
湿度が高いと遠くの景色が霞む事実のように、実際に湿度は写真にも写る。周辺減光あり。
控えめなフレアーが美しい。
エモい。シネマチックでノスタルジーな雰囲気がたまらない。
モノクロもいい。
地面にいる虫を探すカラスさん発見。
伐採された木から生えた新芽。新しい命の息吹。ほんのわずかにグルグルボケの兆候あり。
夏の枯れ葉の落ち葉とか好きでしかない。
雑草でもなんでもいいんだ、自分の場合。
逆光でゴースト出るか試したところ、若干ビーム状になりかけのゴーストが発生した。
マクロスイターは滲む銘玉。
最大撮影倍率は1/3倍なのでハーフマクロまでもいかないが、優しく柔らかく繊細な描写で、かつ寄れる標準域のオールドレンズという位置付け。
色んな表現ができる魔法のレンズ。史上最高の標準レンズか…なるほど。一見地味だが100本近くオールドレンズのティスティングをしてきた筆者にとっては感動の嵐の連続。
ブログでアップロードする時に解像度は下げているが、元画像はどの画像を見ても凄まじい解像力の高さだ。
なんとも上品で優しくて美しい。
2024年4月試写。マクロでモノクロもしびれる。近接時の独特にとろけるボケと芸術的な滲みは唯一無二。
カラーもいかつい。クリエイティブルックNTでjpeg撮って出し。
現行レンズにはない優しさと柔らかさがあるのに解像度ハンパない。うっとり。
発色も優しい。これもNT。
このシャドウの描き方がたまらん。ライカより高価なカメラALPAを一躍世界で有名にした伝説のレンズがKern ALPA Macro Switar 50mm f1.8AR。
言葉は無用。本レンズは紛れもない神オールドレンズ。
寄ってよし、離れてよし、史上最高の標準レンズは本物だった。
ピンボケもかっこいい。アートだ。
操作性云々は本人の技量と慣れでスナップも全然いける。
FL。
モノクロで桜もいいな。
バイバイ。
マクロスイターより安くて寄れる50mmのおすすめオールドレンズは?
史上最高の標準オールドレンズの呼び声が高いマクロスイターだが、中古価格は20万円以上と高価でアダプターも入手しづらいし操作性も悪いし若干重い。では、もっと安くて汎用性の高いマウントでマクロ域も強いオールドレンズはないか。
近接撮影に強く独特なボケやバブルボケで有名なMeyerのOreston50mmf1.8や後継のPentacon50mmf1.8はM42マウントで中古価格も1万円程度で入手できる。そういう意味で超絶コスパが高いメイヤーのオレストンやペンタコンを選択しても全然アリだ。
もちろん至高の滲みやピント面のキレ、解像度の高さ、柔らかいボケの質感はマクロスイターの方が圧倒的に上だが、オレストンとペンタコンも優しく滲み柔らかい描写で、虹ゴーストやバブルボケ、近接時の独特なボケなどオールドレンズの魅力が満載だ。その辺は作例を見て参考にしてみてほしい。
まとめ
マクロスイターは非常に上質な描写だが操作に多少難がある、が逆にそれも愛おしく思える。不完全で未完成という完成形。全く手がかからない恋人より、多少手がかかる恋人の方がかわいく思う感情と似ているか。プラスに考えるとシビアなピント合わせができるので強みになる。
史上最高の標準レンズの称号は伊達じゃない。今回は以上。本日も素敵なオールドレンズライフをお過ごしください。