Canon FD 55mm F1.2 S.S.C レビュー作例 キヤノン銘玉滲みオールドレンズ アスフェリカルとの違い
Canon FD 55mm F1.2 S.S.C レビュー作例 キヤノン銘玉滲みオールドレンズ アスフェリカルとの違い。本レンズは開放でド派手に滲みバブルボケに近い玉ボケが暴れ回り美しい虹ゴーストが二重に発生するなど絵画的な描写を見せる反面、2段絞ってf2.8以降ではキレキレシャープネスな描写を見せる筆者お気に入りの国産オールドレンズだ。そして、今や100万円超えアスフェリカルとの違いも解説し、作例紹介と実写レビューを行う。
Canon FD 55mm F1.2 S.S.Cのスペック
- 発売年月:1973年3月
- 当時発売価格:5万円
- レンズ構成5群7枚ダブルガウス型
- 絞り羽根枚数:8枚
- 最大絞り値:F1.2
- 最小絞り値:F16
- 最大撮影倍率:0.109倍
- フィルター径:58㎜
- 最大径×長さ:75.8mm×52.5mm
- 重量:565g
- 中古相場価格:3.5~4.5万円
Canon FD 55mm F1.2 S.S.Cのレンズ外観
撮影機材はSonyのフルサイズミラーレスカメラα7C、レンズは前玉凹みレンズ キャノンFD 35mm F2。正面から。本レンズを物撮りしてるFD35mmF2は情報は少ないが、本来のレンズの性能を超えたマクロ端で超絶エモい写真が撮れる筆者お気に入りのオールドレンズの1本だ。
正面から。
ちょい斜めから。被写体のカメラはα7Ⅳ。レンズのデカさが伝わるだろうか。
角度を変えて。レンズはずっしりとガラスの塊の重量感があり金属鏡胴でラグジュアリー感がある。
α7Ⅳに対してレンズはこのサイズ感。そして見た目以上に中身が詰まってる感じがして重い。機動力のあるスナップであちこちブン回すにはちょっとしんどい。
レンズ単体で。
今回の撮影機材であるFD35mm/f2の作例はこちら。情報が少なく注目されていないが準広角35mm隠れた銘玉クセ玉オールド神レンズ。
Canon FD 55mm F1.2 ASPHERICAL S.S.Cとの違い
FD 55mm F1.2 ASPHERICAL S.S.C.はテレ側(無限遠側)からからマクロ側(最短撮影側)までピントリングを回す量が多い。コーティングも違う。FD 55mm F1.2 ASPHERICAL S.S.C.が価格高騰した理由は、アスフェリカルの光学設計が映画用のシネレンズK-35と一緒ではないかという噂が広まった為。
CanonレンズのS.S.Cとは、Super Spectra Coating (スーパー スペクトラ コーティング) の略でカラーバランスを整えるキャノン独自のコーティング技術。一般的に通称マルチコーティングと呼ばれるものと同義語。そしてAsphericalとは非球面レンズのこと。
S.S.C.は従来の球面レンズを使用しているのに対して、アスフェリカルは第二レンズの第一面で非球面レンズを採用している。アスフェリカルは一眼レフカメラ用交換レンズとして世界で初めて非球面レンズを採用し、絞り開放から高画質を得る為に開発され、最高級の35mmシステム一眼レフ「F-1」や量販主力機種「FTb」と同時に発売された標準レンズである。
S.S.C.の前身であるアスフェリカルは非球面を第2レンズ第1面に配置し、研削して加工していた。こうしてレンズを非球面にすることにより、近軸と周辺の光束を最良結像面に理想的に収束させて収差を補正し、開放F1.2から絞っても高コントラストな光学性能が得られるようになった。
また、近距離補正(フローティング)機構を採用したことにより無限遠から最短まで高画質を得ることができる。
Canon FD 55mm F1.2 S.S.Cは伝説のシネレンズK-35と同一の光学
マクロズームレンズK5×25とK-35シリーズは「アカデミー映画賞科学技術部門賞」を受賞したシネマ用レンズである。1969年にハリウッド関係者がCANONを訪れ映画用のズームレンズを作って欲しいと要請した。
これに対しキャノンの光学設計技術者である向井二郎と広瀬隆昌が中心となり、シネレンズを開発に取り掛かった。1971年5月に「マクロズームレンズK5×25」が完成。1973年には映画用マクロズームレンズの開発の功績が称えられアカデミー映画賞科学技術部門賞を受賞した。K-35も同時受賞したと言われている。
他にも「24mmT1.6、35mmT1.4、55mmT1.4、85mmT1.4」などのラインアップがあり、その内35mm以外はスチル(静止画)用レンズも存在する。K-35は元々個体数が少ない為入手が難しくリバイバルして使うにしても非常に高価である。
その為、光学設計が同一であると言われている「CANON FD 55mm F1.2 ASPHERICAL S.S.C.」に注目が集まり価格が高騰したと推測されている。
Canon FD 55mm F1.2 S.S.Cと同一光学の伝説のシネレンズK-35が使用されている映画の例
K-35はタイタニックやアバターなどで有名なジェームスキャメロン監督がエイリアン2でK-35を使用した。他にも、バリリンドン(BARRY LYNDON)でも使用された。月の裏側を撮影する為に開発されたCarlZeissのPlanar50mmF0.7が夜間にろうそくの明かりのみで撮影したことが有名だが、それ以外でK-35が使用された場面もあった。
近年では、以下のテレビドラマなどでK-35が撮影に使用されている。
- 2013年 her 世界でひとつの彼女、アメリカンハッスル スパイクジョーンズ監督
- 2016年 マンチェスター バイ ザ シー
- 2016年 TVドラマ PREACHER
- 2017年 TVドラマ THE HANDMAD'S TALE
- HBOの人気ドラマ ウェストワールド
Canon FD 55mm F1.2 ASPHERICAL S.S.C.よりFD 55mm F1.2 S.S.C.は本当に劣っているのか
では、FD 55mm F1.2 ASPHERICAL S.S.C.よりFD 55mm F1.2 S.S.C.は本当に劣っているのか。結論は「そうとは言い切れない」。上野由日路さんが解説しているレンズホリックの動画の作例を見るとどちらもかなり似た描写だがよく見ると若干違う。
アスフェリカルの方が発色が淡く柔らかめでふんわりした描写に見える。映画用なので長時間見ていても疲れないように設計されているのだと思う。それに対しS.S.C.はコントラストが強めでこってりした発色でしっかり写る印象を受けた。
静止画ならSSCの方が向いているかもしれないが、淡くしっとりした描写を求めるならアスフェリカルの方が向いていると思う。しかし、上野氏も述べている通り、Lightroomなどの補正で補えるレベルであると私も感じる。
また、私が購入したS.S.C.は開放では派手に滲み、柔らかく幻想的な描写を見せている。個体差もあるかもしれないが、SSCは2022年現在、4~5万円で購入できるが、アスフェリカルはその10倍はするので、その価格差を考えるとSSCはかなりおすすめだと思う。もう1本欲しいくらいだ。
2022年4月に都内某中古カメラ屋にて43800円で購入した。分解清掃済みだったので綺麗な個体だった。店舗で試写した瞬間ビビッときたお気に入りのレンズだ。作例は随時アップしていく。
余談だが、情報が少なく謎が多いキャノンの35mmF2も購入してこちらも大満足。戦後直後のCANON 50mmF1.2Lも狙っているが状態が悪いものが多く探すのに苦戦している。
非球面アスフェリカルの方が柔らかくふんわりしていてボケもなだらかでシャドウも弱め。非球面ナシ球面SSCの方が発色が鮮やかでこってりしていてシャドウは強めなのでコントラストがはっきりしている印象。
やはりK35というムービー(シネマ)用レンズと中身が一緒ならそうなるかという。やはり正直アスフェリカルの方がよいかも。個体差があるのか?初期の球面ズミルックスが後期の非球面ズミルックスより滲みやクセが強く後世になり評価が上がったパターンとは違うのか。
球面、非球面だけでは語れないのか。実際にこの手で撮り比べたい。では、作例と実写レビューを行う。
Canon FD 55mm F1.2 S.S.C.の作例と実写レビュー
レンズの写りを確認する為の試写なのでjpeg撮って出し未加工。カメラはSonyのα7Ⅳでボディ内の設定でクリエイティブルックは基本NTかST。一応レンズとクリエイティブルックの愛称を確認する為に一通り試すがやはりNTかSTが一番いい。柔らかいINやソフトなSH、フィルムライクなFL、鮮やかでコントラスト高めのVV2なども時には良い。モノクロもよい。
自宅を出てすぐ一発目。逆光で撮影。画面全体にフレアが出現し滲みもいい。新しいレンズの試写に出かける日は一日が丸々楽しくなる。ピントが合っても滲む。滲ませたくて購入したので嬉しい。この時点では線が細く発色も淡く見えるが、後の作例でもわかるが線は太目でこってりした描写。
像面湾曲なし。周辺減光若干あり。淡くレトロな描写。鳩さんこんにちはどこ行くの?
お茶畑の一部。新緑と青空のコントラストと空のトーンが美しい反面、周辺減光でドラマチックさ、レトロ感を演出。昭和の映画のワンシーンのようだ。
植物の葉のシャドウの描きや周辺の甘さが古めかしいというかノスタルジックというかエモいというか。後ろの建造物も全体の形は若干残したまま崩壊していく様がかっこいい。
小さい深紅の薔薇。手前の薔薇のボケもいい感じ。この距離ですでに中央下辺りに玉ボケができ始めている。何を撮っても絵になるから恐ろしい。ね、線は太目。
オオムラサキツユクサ(ブルージャケット)。その辺に咲いているがかわいい植物だ。ヘリコイドアダプターで寄っているおかげで接写で様々なボケが楽しめる。こちらも線が太目で発色はこってり目でNikonっぽい写り。SSCコーティングの影響か。
同じく。こちらはボディ内のクリエイティブルックでSHで撮影したもの。一通りクリエイティブルックは試す。二線ボケの中に玉ボケというか玉ボケの二線ボケというか。かっこいい。
様々な収差が暴れ回ってる写真。スマホやPCの壁紙にしても飽きない感じの画が好き。ウェールズポピー。名前の通りイングランドの北部ウェールズ産のポピー。エグい繁殖力で日本中のあちこちに咲き誇る雑草的な一種だが、かわいいのだ。今や巷に溢れ返り過ぎてるけどやっぱダブルガウスってすげーのな。ものすごい雰囲気。
逆光でハイライト飛ばし気味(わざと)。若干ゴースト出現。
青空とゴースト。青空と薄い雲のトーンが美しい。この後二重ゴーストも発生した。
状況によってはバブルボケになりそうな予感がする玉ボケ。楽しいレンズ。キャノン FD 55mm F1.2 S.S.C.の非球面レンズを搭載したアスフェリカルは2022年9月時点で100万円近くまで高騰している。本レンズは非球面ではないので今ならキャノンFDのF1.2が4万円前後(2022年時点)で購入できる。クリエイティブルックNTじゃなさそうだな。
薔薇だと思ったがツバキかもしれない。玉ボケが踊っている。うっすらゴーストも併せてみた。クリエイティブルックを変更している。花びらの輪郭が浮き出るようだ。立体感がありボケは壮大に崩壊し様々な収差を魅せる。この描き方が芸術的。
後ろの背景のボケをさらににぎやかにしてみた。被写体の薔薇よりボケの方が目立ってないか?ピント面は鉛筆のデッサンに水彩絵の具で塗り、ボケは油絵のようだ。状況によってはバブルボケに近い感じの玉ボケ出そう。
確か3段絞ってF5.6?で撮影。薔薇の花全体を捉えて花びらの輪郭を強調してみた。ね?2、3段絞るとカリカリシャープネスでしょ。ジキルとハイドや。ボケも落ち着き被写体の薔薇のエロティックな花びらに目がいく。絞ったので玉ボケは必然的に小さくなるががカクつきが目立たない自然な感じでよき。
そんなこんなでしばしレンズと薔薇と戯れていた。写真を撮って無になる時間は私にとって大切で幸せなひととき。もちろんjpeg撮って出し未加工。レンズの腕前が良すぎて自分の出番がないっす。
滲んだり、ざわついたり、名前も知らない誰も振り向かない道端の木々がこんなにノスタルジーに素敵に撮れる。よきオールドレンズ。
作例は以上。レンズのティスティング、ごちそうさまでした。記事の執筆時(修正時)は作例を撮影して半年以上経過していて感性がまた変わってきているので、近々また持ち出して試写したい。そんなレンズが多すぎる。もうレンズを買うのやめよう(できることなら)。
Canon FD 55mm F1.2 S.S.C. で実写した感想レビュー
開放時の盛大な滲み、時に淡く時にこってりした発色、周辺像のざわつきや流れ、玉ボケ(バブルボケ)、美しい虹ゴースト、崩壊して暴れ回るボケ、とオールドレンズらしい収差は存分に楽しめる。
ドラマチックな周辺減光、国産F1.2という大口径でこの写りで4万円前後というコストパフォーマンスの高さ、買って大正解。まだ2回しか持ち出してない…(いつものこと)。やはりシネレンズの光学と酷似したAsphericalの方が若干発色が柔らかい気がする。
しかし、ド派手な滲みは本レンズの方が上だと思う。性能がいい割に数万円で入手可能なのでコスパは高く正直かなり買いだと思う。
まとめ
滲み目当てで購入したが、かなり重いので持ち出す頻度は少なくなりそうだ。また、国産オールドレンズのF1.2はKonica HEXANON AR 57mm F1.2 AEとNikon Nikkor S 55mmF1.2も保有しているが同じく大きくて重い。
f1.2は当時のスペック的にかなり無理をしているのだろう。どのレンズも総じて滲む。もちろん筆者は滲み玉は好きだし、明るさを求めた反動で現れるその他収差も大歓迎だが、正直f1.4やf1.8クラスが扱いやすいと思う。
これは、f1.2とf1.4、f1.8をそれぞれ所有して撮り比べたからわかることだし、人それぞれ感性が違うので一概には言えない。正解はない。だから「沼」なのだ。今回は以上。本日も素敵なオールドレンズライフをお過ごしください。